「許されることのない後悔と、父の『初めまして』」NO.35

高齢者インタビュー

久しぶりに父の施設を訪れた。

忙しさにかまけて、足が遠のいていたが、ようやく時間を作ることができた。

しかし、再会の喜びは、私の中で儚く砕け散った。

「父さん、久しぶりに来たよ」

父の目は、私を見ているようで、どこか遠くを見つめていた。

名前を呼んでも、表情ひとつ変わらない。

嫌な予感がした。

何か言葉を発しようとするが、それはただの空気の振動にすぎなかった。

私はその場に立ち尽くし、喉の奥がぎゅっと締め付けられるのを感じた。

「父さん……」

「初めましてかな?」

父の口から発せられた言葉に、心臓を鷲掴みにされたような感覚がした。

こみ上げる涙を必死にこらえた。こんなに悲しいのに、泣くことすらできなかった。

私は、父との時間から逃げてしまった。

縁を切ることを選び、苗字を変え、現実から目を背け、一人にしてしまった。

それなのに、今になって後悔しても遅い。

最後に父と明確に会話をしたのは、

祖母が亡くなり、ひとりになった父の生活が困難になったときだった。

私はしばらく一緒に生活し、介護をしながら支え続けたが、やがて限界が来た。

父をだましだまし病院へ連れていき、「また見舞いに来るから」と言い放った。

父はどこか寂しそうに「分かった」とつぶやいた。それが、父と交わした最後のまともな会話だった。

それから高次機能障害が進行し、父の感情は怒りへと変わった。

面会に行こうとしても、拒絶される日々が続いた。

そして今日、久しぶりに許された面会。

しかし、目の前にいる父はもう私を知らない。

「つらいなら話を聞くよ」

ふいに、隣の部屋から穏やかな声がした。振り向くと、80代のFさんが微笑んでいた。

白髪混じりの髪、深い皺の刻まれた優しい表情。

まるで、すべてを受け止めるかのような眼差し。

「……ありがとうございます」

かすれた声でそう答え、私はFさんの隣に腰を下ろした。

そこで、抑えきれなくなった想いが溢れ出した。

「父とは、いろんな思い出があるんです。厳しい人でした。でも、本当は家族思いで……。

なのに、もう俺のことは覚えていない……」

嗚咽が漏れた。声が震えた。でも、Fさんは黙って、じっと聞いてくれた。

「人はね、記憶を失っても、大切な人のことは心の奥に残っているものさ。

たとえ言葉にならなくても、きっとどこかで君を感じているよ」

私は、はっとした。

たとえ私の名前を忘れても、私がここにいることは、心のどこかで伝わっているのかもしれない。

そのまま、私は『時代屋こあら日記』の活動について話した。

高齢者の物語を記録し、世代を超えて紡ぐこと。

その意義。そして、今日、自分が逆に話を聞いてもらっていることの不思議さ。

「素晴らしいことをしているね。君みたいな若い人が、私たちの話を聞いてくれるのは嬉しいよ。君のお父さんも、きっと誇りに思っているはずさ」

父は言葉を失ってしまったけれど、今も私の中に生き続けている。

綺麗ごとなのもわかっている。前に進むしかない。父も私も生きているから。

別れ際、Fさんは私の肩をぽんと叩き、にこりと微笑んだ。

「また話しにおいで。話すことで、救われることもあるからね」

私は静かにうなずき、施設を後にした。

父は私を忘れてしまった。

でも、私は父を忘れない。

そして、これからも、誰かの記憶や想いをつなぐために、この活動を続けていこう。

孤独な介護と後悔、そして気づいたこと—父との向き合い方-NO.28:こあらの父親の物語 – 時代屋こあら日記

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時代屋こあら

こんにちは!「時代屋こあら」と申します。27歳で、大学を卒業してから転職を繰り返し今は9社目の職場にいます(笑)

私のこれまでの歩み

小学生の頃から大学までずっと野球してました!
大学卒業後は地元から東京に上京!
しましたが、、、父親が病で倒れたり、父が経営していた会社倒産したり、実家なくなったり( ;∀;)踏んだり蹴ったり!!
そんな人生歩んできても一生懸命生きてます!

このブログでは、実際に高齢者の方々にインタビューし、彼らの貴重な人生経験を共有することで、現代に活かせる知恵やヒントを探していきます。転職やキャリアに迷う若い世代の方々にも、過去の経験から学べることをお伝えしたいと思っています。
これからも、皆さんと一緒に時代のヒントを見つけていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします!

占いで前世コアラって言われたので「時代屋こあら」でやってます!

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